白石康次郎さんロングインタビュー 夢みる数字vol.9「世界の和」篇
小さい頃から海のそばにお住まいだそうですね。
もともと山で遊んでたんですよ、サルみたいに(笑)それがだんだん海へ移って、遊びの環境が大きくなっていって、世界が広がった。好奇心ですよ。海の向こうに何があるのか、この目で見たいと思うようになった。高校時代に、多田雄幸さん(第1回単独世界一周レース優勝者)を知ったことも大きかったですね。
白石さんにとって、海はどんな存在ですか?
海という存在は、今でも大きくて、果てしない。ロマンチックだったり、パラダイスみたいなイメージもありますが、僕にとっては本来、苦しくて、冷たくて、残酷なものです。人間が作り出したものではないですから、人間の都合には合わせてくれない。その海の上で、ヨットは風が吹かないと単なる置物。自然界のエネルギーと人間の英知が<調和>して初めて動き出すんです。そこが面白い。
ヨットレースを通じて、さまざまな国の人たちと交流がありますね。
レースでは、風のない凪は、備える時。そして、本当に危険な時は、レースをやめて、サバイバル、つまり、生き延びることに切り替えるんです。レース前、僕たち選手同士のあいさつは「セイリング、セーフ(安全に航海しよう)!」。そして、レース中もお互いに助け合うのが当たり前。スペインのレースでも、後方のヨットが転覆したとき、前を走っていた僕や、周囲のヨットのスキッパーが前後から助ける場面がありましたね。
勝ち負けだけを競う競技ではないのですね。
そうです。僕にとっても、レースでの優勝やサバイバルが目的ではない。経験を通じて自分を高めていくことで「白石さんといると頑張れる」「楽しい」って、みんなを幸せにしたい。そういうことが僕は自分の天命だと思ってるんです。
大切なのは、何になりたいか、より、何をしたいか。 だから、僕にとって、お金持ちになることは夢ではない。お金は夢をかなえるためのパスポートのようなものでしかないんです。 僕は、僕にしかできないことで、幸せになりたい。同じように、人にはその人にしかできないことがある。 そういうものが見つかるといいと思います。情報が多く、やりたいことを掴みづらい時代ともいえます。
テレビやインターネットを見ても、夢なんか書いてないですよ。「ヨットで世界一周する仕事」なんてないですから(笑)。夢って、外から来るものじゃない。内側にあるんです。でもそれを頭で考えもわからない。頭で計算しないで、自然に出てくるまで、大失敗を何回も何回も繰り返す。そこから気づくことが多いんです。だからまず、飛びこんでみよう!と、言いたいですね。逃げなければ、活きる道が見つかる。答えは、内側にある。それを発揮してみることです。
お父さまでもある白石さんから、今の子どもたちに伝えたいことはありますか。
自然は嘘をつきません。ヒマワリの種からアサガオが咲くこともないし、良くない種からは、良くない花が咲く。そういう自然の姿から学んでほしいと思いますね。
そして、素直に、まっすぐ上をみること!こうべは実ってから垂れればいいんだから、周りの目なんか気にしなくていい。頭ではなく、ハートを使うことが大事です。 かわいい子には旅をさせろ、と言いますが、まさにそのとおり。見聞を広めるために、世界へ出ることは大事だと思いますね。旅をすれば困った状況と出会う。そうした時に触れる人情が大切で、それが絆になる。今、まさにその絆が見直されている時ですね。今の状況に対して何が出来るのか。ひとりひとりが考えている時ですね。
なすべきことをなす。それに集中すればいいと思います。自粛しすぎてもだめ。しないのもだめ。そういうところもまた、<調和>ですね。僕はいつも、「境遇は問われない。行動が問われる」と考えています。過去よりも、これから何をするかが大事です。
海に生きる白石さんが具体的に考えていらっしゃることはありますか?
日本は自然に囲まれていて、自然が豊かであると同時に、そういう自然とつきあっていかなきゃいけない。これまで受けてきた恩恵も忘れずに、じゃあ、どうつきあっていくのか。抑え込んだり、怖がったりするのではなく、自然と人間の英知を<調和>させていくことが大事だと思います。例を挙げると、四万十川の沈下橋。ディフェンスでも、オフェンスでもなく<調和>でもって対応するということですね。受け流す、という方法にはたくさんのヒントがあります。
これからの日本について考えていらっしゃることを教えてください。
大変な事態でも冷静に行動できる日本の国民性は誇っていい。また、いま、日本を助けてくれている国は「恩返し」だと言ってくれてる。それは、これまで日本が他の国を援助してきたからなんです。そういう点も含めて自分の国をよーく知って、そして自分自身を知る。それが、これからを考える手がかりになるんじゃないでしょうか。
これが変化のきっかけになるかもしれませんね。
そう。日本の素敵なところがわかった。エネルギーについてもわかってきた。今回の経験は、日本だけでなく他の国々にとっても、これからのエネルギーや社会のあり方などをあらためて考え直し、よりよい社会へ進んでいくチャンスになるかもしれません。
そして日本は、世界で最初のステージに踏み出せる可能性がある。日本はこれからのエネルギー社会のリーダーになれるかもしれない、とも、僕は思っているんです。過去のインタビューはこちら

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