プロジェクトストーリー 01 - 大貫繊維株式会社

Project Story プロジェクトストーリー

01/サステナビリティ・リンク・ローンが会社を変えた 大貫繊維株式会社

  • 7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに
  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 15 陸の豊かさも守ろう
大貫繊維株式会社 代表イメージ

活用スキーム

取り組み目標

工業用ミシン糸のトップメーカーとして知られる大貫繊維株式会社。明治の産業革命期から撚糸の産地として発展してきた半原の地で、創業128年を迎えた今、さらにこの先の100年に目を向け、環境保全に対する取り組みを積極的におこなっている。会社全体の意識を高めるきっかけになったというサステナビリティ・リンク・ローンの活用について、大貫雅文社長と豊島康平取締役、横浜銀行厚木支店の高橋研氏の3人に話を伺った。

企業情報

  • 会社名大貫繊維株式会社
  • 代表者代表取締役社長 大貫 雅文
  • 所在地神奈川県愛甲郡愛川町半原6番地
  • 創業1894年
  • 事業内容工業用ミシン糸、各種資材用ミシン糸、絹および各種撚糸加工、一般産業資材
  • ウェブサイト www.onuki-seni.co.jp新しいウィンドウで開きます
大貫繊維株式会社 工場イメージ

INDEX

SDGsに対する意識を高めていかなければ、業界自体が残っていかない

サステナブルファイナンスに目を向けたきっかけをお聞かせください。

大貫社長

大貫繊維の創業は120年ほど前です。以来、この地で生糸の加工業を生業としています。現在は天然繊維から化学繊維に置き換わり、ポリエステルのミシン糸とカーシートの縫製用の糸を製作しています。皆さんが着ている服や乗っている車に、弊社の製品は広く使われているんですよ。
大貫繊維は国内だけではなく、中国にも工場があります。繊維製品のモノ作りでは、大量に重油を使うのでCO2(二酸化炭素)を排出しますし、染料を使う過程で汚水も出ます。もちろん、排水処理を行いますが、環境負荷の高い事業という意識をずっと持っていました。私たちのいるアパレル業界は、SDGsに対する課題の多い業界なんです。マイクロプラスチックによる海洋プラスチック問題、製品の廃棄問題、生産地の労働問題など、様々な問題を抱えているので、SDGsに対する意識を高めていかなければ、業界自体が残っていかないという思いがあります。

豊島取締役

ここ数年、環境意識の高い会社から「大貫繊維のCO2排出量は年間どれくらいか?」という質問を受けることが増えてきました。社員からも環境に対する声が上がりまして、2021年に社内にSDGs委員会を立ち上げました。
まずはCO2の排出量を自社で調べました。この数値をお取引先企業に対して開示するには、第三者機関による客観的な評価が必要です。そこで横浜銀行に相談したところ、サステナビリティ・リンク・ローンの紹介を受けたんです。

大貫社長

大貫 雅文 (オオヌキ マサフミ)

1979年生まれ。大貫繊維株式会社代表取締役社長。愛甲郡愛川町生まれ。2006年大貫繊維株式会社入社、製造技術、営業を経験し、中国新工場立ち上げ、ベトナム現地法人の設立をおこない、2013年代表取締役社長に就任。生まれ育った地元の環境保全、地域活性を目指し、SDGs活動に力を入れている。学生時代よりバンド活動をしており、現在も趣味で継続活動中。

高橋

横浜銀行グループのシンクタンク・コンサルティング会社である浜銀総合研究所で、工場や会社で排出するCO2やエネルギー消費量を算出しました。ご提案した「サステナビリティ・リンク・ローン」は、SDGs経営高度化のための目標値(SPTs)を定め、その達成度合いに応じてお借り入れ利率などの条件が変動する商品です。今回のご融資では、大貫繊維様は年度ごとのCO2排出量の削減目標を設定されました。

豊島取締役

浜銀総合研究所が算出した客観的な情報で、照明などに使用する電気、機械を動かすための重油などが大きなウェイトを占めていることがわかりました。そして、具体的にどのようにCO2を削減していくかを計画することができました。私たちのCO2の削減目標は日本がパリ協定で国際社会に示した数値を参考にしております。国は2013年度比で2030年にCO2排出量を46%削減するという目標を立てていましたので、私たちはそれ以上やろうと考えました。新型コロナウイルス感染拡大前の2020年と対比して2030年に50%削減しようという目標です。当社は国際的イニシアチブである「RE100」の取り組みに賛同し、2021年11月から事業運営に必要なエネルギーを再生可能エネルギーで賄う電気料金メニューを契約しております。

大貫社長

CO2の具体的な削減目標が決まることで、社内のSDGsに対する意識も変わってきました。社内の生産工程をもっと効率化できないかという意見が自発的に上がってきたんですね。品質を変えることなく染色の際の工程を減らし、同時に使用するエネルギー量を減らすこともできたのですが、この見直しは、エネルギー削減だけではなく、時間の短縮にもつながったんです。現在も新しい技術の導入を進めているところです。

SDGsを意識したものづくりは世界の潮流

豊島取締役

豊島 康平 (トヨシマ コウヘイ)

1966年生まれ。大貫繊維株式会社取締役経営管理部長。横浜銀行出身。2020年6月大貫繊維株式会社入社。入社後、人事制度の改定・企業年金制度の導入を図る等労働環境の向上に尽力。製造業の責任としてSDGs活動にも積極的に取り組んでおり、今回リンクローンの組成にあたって中心的立場で関与。生粋のアウトドア派であり自然豊かな愛川の地に馴染んでいる。

繊維業界全体がSDGsへの取り組みを推進しているのでしょうか。

大貫社長

ええ、世界の潮流ではそう思います。日本企業よりも欧米企業の環境に対する意識は高いですね。例えばある大手のスポーツメーカーは2030年までに「使用する原料を100%リサイクルする」と宣言しています。やがて国内メーカーも追従するはずです。将来的に繊維の世界もSDGsの思想がなければ立ちゆかなくなるでしょう。繊維の多くの原料は石油由来です。これらが製品になった後、リサイクルする仕組みが必要だと思いますね。これまで廃棄していたものを、回収して糸に再生する仕組みの開発も原料メーカーと取り組んでいます。私たちの作るミシン糸は、アパレル業界全体から見れば限られた分野ですが、大貫繊維は常にその中で一番進んでいる位置にいたいと考えています。

高橋

大貫社長は普段から環境意識が高いですよね。

大貫社長

いえ、普通だと思いますよ(笑)。ただ、私たちの会社は山の中にあり、側には川が流れています。夏になると付近の人たちが泳いだり釣りをしたりバーベキューができる場所です。身近に美しい自然があり、地域の人によって守られていることはうれしいですね。そういう環境にいるという意識は強くあります。もし、河原にごみが落ちていたら私たちは拾います。それと同じように、私たちがいるアパレル業界で環境問題があるのなら、できる限り問題解決に取り組んでいきたいと思いますね。

ミシン糸イメージ

社員に生まれたSDGsの芽

SDGsに紐付けされたサステナビリティ・リンク・ローンの導入は会社に何か変化をもたらしましたか?

豊島取締役

大きく変わりました。2030年までのロードマップができたことで、毎月の目標が定まりました。それに対する進捗チェックで具体的な生産活動の検証が可能になりました。なにより、社員全員が共有できる「新しい物差し」ができたことがすごく大きいと思います。それを発端にして社員の意識も変わったと思いますね。SDGsって、知らない人からすると難しく思うかもしれない。ですが、知れば身近なことの延長だと気づきます。

大貫社長

そうですね。電気をこまめに消すとか、ごみを拾うとか。身の回りでできることはたくさんあります。SDGsを推奨するあまり、従業員に大きな負荷をかけたくはありません。SDGsを大切にする意識が続かなければ意味がないわけですから。最初は些細なことでもいい。そうすればSDGsの意識は広がっていきます。「工場で出るごみって何がある?」「それを何かに活用できないのかな?」って。今では、みんなが自然とSDGsに基づいた発想をするようになってきています。その発想の芽を育てるきっかけになったのがサステナビリティ・リンク・ローンだと思います。

高橋

ありがとうございます。今回、ご提案したサステナビリティ・リンク・ローンが御社のSDGs経営向上の動機づけになっているなら、本当にうれしいことです。これが従業員の皆さんのモチベーションの1つになっていればありがたいですね。

大貫繊維株式会社 社員

大貫繊維では若い方が懸命に働いている姿を目にします。今の若い世代は、学校教育でSDGsを学び、SDGsの発想に基づいた行動を自発的にできる資質を持っているように思います。これは御社の取り組みと相乗効果があるのではないかと思うのですが、若い社員たちのSDGsへの取り組みをどうご覧になっていますか?

大貫社長

本質的なところでは社員全員が同じスタートラインに立っていたように感じています。ただ、「会社が取り組む課題としてSDGsというものがある」と提示したときに、具体的に反応をしてくれたのは若い社員が多かったですね。SDGs委員会も若い社員たちが中心です。
地域の人たちに向けて、残糸(糸の端材)を使ったアクセサリー作りのワークショップをした際のことです。若い社員たちの対応を見ていると、思っていた以上にしっかりできていたんですよ。実ににこやかに、丁寧に。そして生き生きとしていました。それは会社や工場で見る面以外の表情でして(笑)、その様子を見て大変感心させられましたね。

最後にSDGsに対する今後の取り組みをお聞かせください。

大貫社長

「2030年にCO2の排出量を半分にする」。「製品の半分をリサイクル商品、エコ対応商品に変える」。この2つが大命題です。地域社会があるからこそ大貫繊維はこれまでやってこれました。このことを強く意識していきたいと思っています。SDGsの取り組みを軸にして社員への教育、意識、能力向上につなげ、会社全体がレベルアップしていくようなことになれば、地域の皆さまへの還元もできると考えています。

インタビューの様子
  • インタビュー内容は2022年8月の取材に基づいています。記事内容および所属は取材当時のものです。
  • 対談は、新型コロナウイルス感染症対策を徹底したうえでおこなっています。写真撮影時のみ、マスクを外しています。

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