プロジェクトストーリー 03 - 神奈川電設株式会社
プロジェクトストーリー
活用スキーム
取り組み目標
- 持続可能な社会の実現に向け、新本社の新築移転に係る資金調達にSDGsグリーンローンを活用することで、取引先や地域社会、従業員といったステークホルダーに対して、神奈川電設がめざす環境経営への取り組みを改めて発信していく。
神奈川電設株式会社は茅ヶ崎市に本社を置く電気設備工事会社。電話やインターネットなどの通信インフラをはじめ、住宅用太陽光発電設備の設置やオール電化工事など幅広いサービスを地元の人たちに届けている。さらに、近年「住まいのおたすけ隊 ecotto湘南」という事業を開始。これは地元の人たちのお役に立ちたいという思いを形にした地域密着の取り組みとなる。
2023年は創業75周年の節目の年。同年4月、横浜銀行のSDGsグリーンローンによる調達資金を活用し新本社が完成した。百年企業をめざす神奈川電設の大森竜太郎代表取締役社長と大森江似子取締役に話を伺った。
企業情報
- 会社名神奈川電設株式会社
- 代表者代表取締役社長 大森 竜太郎
- 所在地神奈川県茅ヶ崎市萩園3178
- 創業1948年
- 事業内容電気通信設備やCATV設置の調査・設計・施工・保守
- ウェブサイト https://www.kanacom.co.jp
歌川広重の浮世絵に描かれた、雄大な富士山を望む場所で
新本社の側には相模川が流れ、遙か先には雄大な富士山を望みます。とても素敵な場所ですね。
大森社長
大森 竜太郎(オオモリ リュウタロウ)
神奈川電設株式会社 代表取締役社長。1964年神奈川県平塚市生まれ。1986年4月古河総合設備株式会社入社、情報通信課勤務。1988年4月神奈川電設株式会社入社、線路設備部(NTT関連事業)従事。2007年代表取締役社長就任。2016年よりもっとお客さまのお役に立ちたい、もっと地域のお役に立ちたいとの思いから「住まいのおたすけ隊」事業をスタート。2020年コロナ禍を機に事務所内の環境改善を目的に新社屋建設プロジェクトに着手。創業75周年を迎える本年3月竣工。100年企業をめざし日々奮闘中。
戦後すぐの創業以来、地域の通信インフラの設営を担ってきましたね。
大森社長
戦前、祖父の巳三郎が満洲に渡り、通信設備を敷設する仕事をしていました。終戦時には中国の北部にいて戦後2年経ってようやく神奈川に帰ってきました。創業は昭和23年(1948年)です。2023年は創業75周年の節目の年なのですが、あと25年で創業100年です。この先の25年でなにができるかを考え、新本社を建設しました。祖父の代から続く神奈川電設を百年企業にしたいと思っています。
新本社を建設するにあたって、SDGsグリーンローンを採用されました。SDGsグリーンローン導入のきっかけはなんですか。
大森社長
新本社建設を担当した若手の設計士が環境対策に関して熱心でBELS(ベルス)認定を取ることを提案してくれました。BELSとは建築物省エネルギー性能表示制度のことで、省エネ性能を第三者評価機関が評価し認定する制度のことです。これからの時代は環境を無視して事業はできません。私たちの新本社建設も環境対策を客観的に評価するBELS5つ星取得をめざした設計を進めることにしました。
横浜銀行からSDGsグリーンローンとは、「資金使途を環境改善(グリーン)の各種原則に基づいた適格プロジェクトに限定したもの」と説明を受けました。私たちが建設しようとしているBELS5つ星相当の省エネ性能をもった新本社建設もSDGsグリーンローンによる資金調達の対象とのことでした。そこで、SDGsグリーンローンを導入し、調達資金は新本社の建設資金として全額充当しました。
環境改善効果と地域社会への影響を考慮した新本社
資金使途の適合性を評価する第三者評価機関のレポートによると新本社は「一定の省エネルギー性能を有しており、グリーンローン原則における『エネルギー効率』に該当するプロジェクトとして、エネルギー使用量の削減が見込まれる」とあります。具体的にはどのような環境改善や社会的課題解決に対する取り組みがおこなわれていますか?
大森社長
省エネルギー性能などの環境改善効果はもちろん、地域社会への影響も考慮しました。社員が働きやすいよう管理職や若手社員を交えたワークショップを実施し、コロナ禍を経た新社屋での新しい働き方などを意見集約してコンセプトを検討しました。
社屋と近隣住宅とはある程度の距離はとっていますが、夜間のオフィス照明の影響を抑えるために、遮光性のロールスクリーンを設置しています。また、外部階段を使用した際に鉄製の階段ですとカンカンと靴音が周囲に響いてしまいます。靴音を軽減するために階段の踏板や踊場にRC成形板を採用しています。小さなことですが、毎日のことですから気になってしまいますよね。
冒頭でお話ししたように、すぐ近くに相模川が流れています。ここ数十年は大きな水害被害は出ていませんが、これから先のことは誰にもわかりません。万が一、周辺地域で洪水被害が発生した場合には、災害時トイレや緊急的な避難場所として使用することも視野にいれた設備設計を実施しています。屋上には太陽光発電、燃料で動く非常用発電機、防災備蓄倉庫も設置しておりますので、災害で電気が止まっても数日は自前の電力で対応できるようにしています。
大森社長
エネルギー使用量の削減に寄与するものとしましては、窓にはエコガラス(Low-Eガラス)、さらに遮熱対策としてロールスクリーンを設置しています。断熱性能の高い外壁断熱材を使用していますので空調エネルギーも抑制できます。空調機は高効率型ですし、全熱交換器には消費電力が少ないものを採用し、また、外の明るさに応じてオフィスの照明の明るさを制御する昼光制御や人感センサーを採用することで、照明のエネルギーを抑制しています。
ワークショップで出た意見を参考に、オフィスのレイアウトも従来のものから大きく変えました。社員が自律的に業務内容や気分に合わせて、時間と場所を自由に選択することができるABW席(ABW=Activity Based Working)を一部採用しています。「お洒落なオフィスで社長らしくないですね!」と若い社員からも笑顔でからかわれることがありますから、どうやら好評のようですね(笑)。
生まれ育った地域に貢献したい、若手社員たちの思い
若い社員に見る事業形態の変化の兆しはありますか?
大森社長
私たちの会社は140人ほどの規模です。さほど大きな会社ではありませんが、人手不足と言われるこの時代でも順調に新入社員を採用することができています。若い人たちと面接をしているときに気づいたのですが、ほとんどの人が生まれ育った地域で地域貢献ができるような仕事に就きたいと言うのです。これには驚きましたね。我々昭和の人間は、「一度は花の都東京へ!」みたいな感じでしたけどね。今は生まれ育った地域で仕事がしたいという思いが強いようです。
私たちの事業に『住まいのおたすけ隊』いうものがあります。「神奈川電設のどんなところに興味を持ったか?」と入社希望者に尋ねると、多くの人が『住まいのおたすけ隊』に興味を持ってくれています。この『住まいのおたすけ隊』は、BtoCの事業です。私たちの仕事は電話やケーブルテレビなどの会社から依頼されて、ご家庭や会社にお伺いします。そこで、「たこ足配線だからコンセントを増やしたい」とか「庭に電気自動車用のコンセントを付けたい」というようなご要望を聞くことがあります。現場でそんなお話を聞くとecotto(エコット)事業部に連携して、『住まいのおたすけ隊』が出動します。
大森取締役
『住まいのおたすけ隊』は、私たちの地元である茅ヶ崎、湘南エリアの方々に、神奈川電設のファンになってほしいという思いが込められています。たとえば、社員が食事に行ったお店で、「電気が壊れているな」と、気がついたら「うちの会社ならすぐに直せますよ!」とお声がけする。そういうことを続けていけば、地域とのつながりが広がっていく。その結果、地域に必要とされる会社になれるのかなという気がしています。社員が自発的に動き、『住まいのおたすけ隊』の事業が活性化していくのが理想的ですね。
大森 江似子(オオモリ エイコ)
神奈川電設株式会社 取締役 管理本部長。1962年東京生まれ。1988年結婚を機に茅ヶ崎へ移住。1989年より嫁ぎ先の営む神奈川電設株式会社に入社。一男一女の出産、育児を経て2001年より本格復帰。経理・総務・人事と携わるなかで近年SDGsへの取り組みを積極的に社内に導入し『元気で明るい会社作り』をめざしている。好きな言葉は「笑顔で前進!」。
大森取締役
茅ヶ崎も高齢化しています。事実、地域住民の立場から相談・援助活動をおこなう民生委員の方に話を聞くと、お年寄りのなかで住まいのことで困っている方がたくさんいらっしゃるそうなんですね。かつては、何でも相談できる「町の電気屋さん」が存在していました。今おじいちゃん、おばあちゃんが大型家電量販店に行って「コンセント一つ増やしたい」という相談をするかというと……。億劫だし、難しいですよね。それに、知らない人たちが家にやってくることを嫌がる方もいます。
そんなとき、地元で長年商売させていただいている会社がおたすけ隊のような形でケアできるのは、地域にとって良いと思うんですね。そして、おたすけ隊は「お客さま」と「工事をする人」だけの関係だけではなく、時には孫のような関わりが必要なのではないかと思いますね。
大森社長
そう。私たちは「技術屋」「工事屋」です。そこは守りつつ、おたすけ隊は「技術を持ったサービスマン」になってほしいですね。電話やケーブルテレビの仕事をしていると、お客さまに「きれいに配線してくれてありがとう」とお褒めの言葉をいただきますが、工事が終わった途端に、「私たちのお客さま」ではなくなるんです。あくまでも、電話やケーブルテレビのお客さまであって、神奈川電設のお客さまでないんですよね。でも、自分の会社のお客さまという意識でいつでも仕事をするようになることが既存の仕事においても品質・サービスの向上につながると思うのです。
若い社員のモチベーションを考えたとき、神奈川電設がありがとうと言ってもらえるような仕事を増やさなければいけないし、それを望んでいる若い社員が増えてきているという気がします。
大森社長のお話のなかで、「百年企業」という言葉がありました。三代続く神奈川電設を今後どのような会社にしていきたいのでしょう。
大森社長
技術屋、工事屋として75年間やってきたプライドと技術力があります。私たちはこれを持ち続けなければいけない。先ほどの取締役の話と重なりますが、もっと地域のお客さまと関わっていきたいですね。神奈川電設は大きな会社との仕事「BtoB」で75年食べさせてもらってきた会社です。百年企業になるためにはお客さまと直接顔を合わす「BtoC」の要素を入れていかなければなりません。持続可能な企業として、地域に根ざした仕事をしていきたいですね。
PHOTO GALLERY
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インタビュー内容は2023年5月の取材に基づいています。記事内容および所属は取材当時のものです。
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対談は、新型コロナウイルス感染症対策を徹底したうえでおこなっています。写真撮影時のみ、マスクを外しています。
そうなんです。旧本社も近くなんですよ。目の前に流れる相模川では、子どもの頃にはよくハゼ釣りをして遊びましたね。オフィスからは富士山や神奈川を象徴する大山(おおやま)が見えます。茅ヶ崎といいますと、海沿いをイメージする方が多いようです。しかし、この辺りは茅ヶ崎の郊外。近くの馬入橋(ばにゅうばし)は歌川広重の『東海道五十三次』平塚 馬入川舟渡しの図で当時の様子が描かれています。橋がなく、川を船で渡ったようですね。昔は大変だったんですね。実を言いますと、今でも交通に関しては不便な場所なのですが、ご覧のように景色がよく自然豊かな場所なんです。