【特集】いま注目されるPMIとは?M&Aの成果を最大化する方法を解説

貴社は企業や事業の譲り受け側としてM&Aを検討したことがありますか。我が国のM&Aの件数は新型コロナウイルスの影響があった2020年を除けば、足元で過去最高件数を更新し続けています。中小企業の経営戦略においてM&Aがある意味で一般的になったことで、譲り受けを検討するときのご関心がM&Aの成立自体から、M&Aによって期待する成果を得るためにはどうしたら良いか、ということに移行しているように感じます。
M&Aを成功させるにはPMIと呼ばれる譲り受け後のプロセスが重要です。大企業がおこなうM&Aにおいては知られてきた概念ですが、「中小企業白書(2023年版)」によれば、中小企業の7割超はPMIを「聞いたことがない」状況とのこと。せっかく手塩にかけた会社を手放す訳ですから、譲り渡し側にとっても、後に成功と言える状態を実現してくれる会社に託したいと思うはずです。譲り受け、譲り渡し側の双方にとって、PMIを理解しておく必要があるでしょう。
そんな状況を踏まえて、ここでは、いま注目されるPMIについて解説し、M&Aの成果を最大化する方法をご紹介します。
1. PMIの意味とその位置づけ
PMIとは、ポスト・マージャー・インテグレーション(Post Merger Integration)の略であり、M&A成立後におこなわれる経営統合の取り組みを指します。M&Aの成立はスタートラインに立ったことに過ぎず、譲り受け側から譲り渡し側に適切な働きかけをおこなわなければ、期待した成果を得るどころか、マイナスの影響すら生じかねません。
このPMIについて、中小企業庁は中小企業向けのガイドラインを2022年3月に取りまとめています。この「中小PMIガイドライン」によれば、中小企業のPMIの位置付けは、次の4段階で定義されています。
![[M&Aプロセス]①M&A初期検討:M&Aの目的を明確化し、成功を定義する ②“プレ”PMI(M&A成立前の取組):PMIを意識した事前準備をする [M&A成立] [PMIプロセス]③PMI(集中実施期)※概ね1年:PMIの推進体制を構築する PMIの取組を実行する ④“ポスト”PMI(それ以降):“ポスト”PMIにおける方針を検討・実行する](/shared/images/hojin/ma_article_column05_fig_01.png)
特徴的なのは、PMIプロセスに加えて、M&A成立前のM&AプロセスもPMIに含んでいることを明示しているところです。PMIの全体像が把握できたところで、次項ではPMIの集中実施期におこなう内容を詳しく見てみましょう。
2. 具体的に対応する内容
PMIは大きく分けると、経営の方向性を示す経営統合、強みを発揮できる環境を整える信頼関係構築、業務を円滑に引き継ぐ業務統合に分類されます。
経営統合は、譲り受けた会社の従業員にめざすべき方向性を示すフェーズです。中小企業の経営者はカリスマ性があることが多いですが、譲り渡しとともに引退するケースもあるでしょう。このぽっかり空いてしまった穴をしっかりとふさぎ、会社のコアを再構築するため、譲り受けた会社は経営理念や事業計画を示したり、具体的な新経営体制の確立をさせる必要があります。譲り渡す側としても、めざす方向性がしっかりした会社に引き継ぎたいと考えるのは自然のことでしょう。M&Aの成立後に慌てて考えるよりも、検討段階からしっかりと言語化しておきたいところです。
信頼関係構築は、最も重要なフェーズと言っても過言ではありません。特に従業員との関係は要注意です。M&A成立後に速やかに説明会を開催するなどして、全員に、同時に、正確に情報を伝えないと、不信感が生じてしまい、あまり良い結果を生みません。「クイックヒット」と呼ばれる即効性のある就業環境の改善も有効です。例えば旧式のオフィス機器を入れ替えたり、作業着や制服を新調したり、トイレを改修するなど、比較的安価にできることであっても、M&Aを前向きに捉えてもらうきっかけになります。譲り渡した後に従業員が引き続き活躍できる環境を整えてくれるのかを重要視する譲り渡し側の経営者も多いですし、何より従業員の活力が削がれればM&Aをした意味が無くなりかねません。信頼関係の構築の重要さがお解りいただけるかと思います。もちろん従業員だけでなく、取引先との関係構築も忘れてはいけません。特に重要度の高い取引先については、譲り渡し側の経営者に同席して引き継いでもらうなど、協力を得ながら丁寧に対応したいところです。
業務統合で重要なことは、まずは引き継いだ事業を安定的に運営することです。そのうえで、シナジー効果を得るための攻めの統合と、経営基盤を確立させる守りの統合に取り組みましょう。クロスセルや販売チャネルの拡大を狙う売上シナジーや、サプライヤーの見直しや共同調達によるコストシナジーなどが獲得できれば、M&Aの成果を最大化することができます。また、システムを含めた会計・財務処理の共通・適正化や、人材配置の最適化など管理機能の統合も派手さはないですが、経営基盤の確立には重要です。行動計画を策定し、期限を設けて着実に進めていくことが求められます。
3. 見逃せない“プレ”PMIの重要性
前項で確認したPMIですが、一般的には「100日プラン」と言われ、M&A成立後の100日間に集中的に取り組むことが必要と言われています。とは言え、経営統合に専任の担当者を置く余裕のない中小企業では実態として難しいと言えるでしょう。ご紹介した「中小PMIガイドライン」でも、現状把握やPMI推進体制の確立、関係者との信頼関係構築は100日を目途におこなうように促していますが、その他の項目は概ね1年をかけて取り組むように提示しています。
この課題を乗り越え、スムーズなPMIに取り組むためには、M&A成立前の“プレ”PMIの段階から準備をしておくことが重要になります。実際に、M&Aの満足度を示す調査では、早期にPMIの検討を開始した場合に、M&Aの満足度が期待を上回る傾向が明らかになっています。“プレ”PMIとして取り組めるのは、例えばデューデリジェンスなどです。譲り受け後に対応すべき項目に当たりをつけておけば、M&A成立後にすぐに動き出すことが可能です。中でもビジネスモデルを把握するためのビジネス・デューデリは重要と言えます。
スピード感を実現するためには、PMIの推進に支援者の協力を仰ぐことも検討したいところです。その際には、デューデリジェンス=“プレ”PMIの工程から関与してもらえるとスムーズなPMIの実行に繋がります。一方で、M&Aの成立までを対応範囲としている会社も多く、M&Aの成果の最大化には支援者選びも重要であると言えそうです。
以上(2024年9月更新)
(執筆 株式会社浜銀総合研究所 主任コンサルタント 中小企業診断士 香川 和孝)