【特集】今さら聞けないデューデリジェンスとは?リスク回避の重要性を解説

ノンネームシート、レーマン方式にクロージングと、何かとカタカナ語の多いM&Aの世界ですが、デューデリジェンスという言葉はご存知でしょうか。譲り受け側にとっては、M&Aをすべきかどうかの大きな判断材料に、譲り渡し側にとっては誠実な対応をしないと後々に大問題が起きかねない重要な手順であるにも関わらず、その正確な意味合いが浸透していないように感じます。
デューデリジェンスは買収監査と和訳されますが、監査という言葉のイメージから、あまり良いイメージを持たない譲り渡し側の方もいるのではないでしょうか。しかし、情報の非対称性が大きいM&Aにおいて、譲り受け側の懸念を取り除き、譲り渡し側との信頼関係を構築するために、着実におこないたい作業です。
そこで今回は、譲り渡し側、譲り受け側双方のリスク回避を担う「デューデリジェンス」について解説します。

1. デューデリジェンス(買収監査)とは

デューデリジェンスとは譲り受け側の企業が譲り渡し側の企業や事業について、譲渡契約を締結する前に書類や現地調査などによって調査をおこなう手順を言います。デューデリや頭文字を取ってDDなどと略されたり、日本語では買収監査と言われます。譲り渡し側が提示している金額が適切なのか、そもそも譲り受けても問題ないのか、の判断材料を得るための作業です。
譲り渡し側と譲り受け側とのマッチングが成立すると、両者は経営者同士の面談などを経て、交渉を進めていくべき相手かどうかの判断をおこないます。条件面において大筋で合意できれば、場合によっては基本合意書の取り交わし等をおこない、お互いに両想いであることを確認した状態で、詳細を詰めていくことになりますが、ここでおこなわれる作業がデューデリジェンスです。譲り受け側としては、今まで一部の情報しか知らされていなかったことや、譲り受けを完了する前に確認しておきたい事項について、譲り渡し側に資料などを求めます。当然、この段階に至るまでに秘密保持契約を締結していますし、基本的にはM&Aを成立させるためにおこなう調査であるため、譲り渡し側は求められた内容について真摯に対応しなければなりません。譲り受け側からの要望に応えるためには相当な労力が必要ですから、誰が作業を担当するかということも考えなければなりません。M&Aの成立が確定しない段階ですから、不用意に従業員に担当させる訳にもいかず、経営者や経営幹部が対応することが必要となるでしょう。敢えて休業日に調査を実施することも多いです。
デューデリジェンスをおこなう項目は多岐にわたります。決算書や税務申告書に記載された内容が実態に即しているかどうかなどを確認する財務DDをはじめ、次の表のような種類があります。

DDの種類 目的(おもなチェック項目)
財務DD 簿外債務、在庫の実在など
法務DD 許認可取得状況、訴訟リスクなど
労務DD 未払い残業代、労働争議の懸念など
IT DD システムの導入状況など
ビジネスDD 譲り受け後も再現性があるビジネスモデルかどうかなど
環境DD 土壌汚染の有無など

これらの調査を通じて、譲り受け側は譲受の意思を固めていきます。双方が信頼関係を構築していくステップと言ってもいいでしょう。

2. もしも大きな問題が見つかったら

デューデリジェンスは前述のとおり、M&Aを成立させるためにおこなう前向きな調査ですが、確認作業を通じて看過できない問題が発見されることがあります。その場合はどうなるのでしょうか。金銭的な課題であれば、将来的に生じ得る追加コストを織り込んで、当初の想定よりも譲渡金額を減少させることで、M&Aの成立を優先させます。一方で、解決が困難な課題やリスクの広がりを見通せない場合、そもそもM&A自体を見直すということもあり得ます。どれだけ魅力的な事業内容、決算内容であったとしても、M&Aをする目的が達成できる見込みがないのであれば、譲り受けを中止せざるを得ません。
このようにデューデリジェンスは非常に重要なのですが、前述したような多岐にわたる項目をすべて調査することは現実的に可能なのでしょうか。譲り渡し側も譲り受け側も中小企業である場合、専門部署があることは稀であり、普段の業務に加えてこれらの作業が生じる訳ですから、限界があると言わざるを得ません。また、専門家の力を借りておこなう項目も多く、当然、費用も発生します。
このことから、デューデリジェンスを省略してもいいのではないか、という議論がよく起こります。譲り受け側の視点に立ったとき、万一損失になったとしても許容される投資額の範疇に収まる譲渡金額であるならば、なるべく余計なコストを減らしたいということになるでしょう。また、双方がかねてから知人同士であり、心理的な部分でデューデリジェンスを避けたいということも聞くところです。
しかし、M&Aの目的を達成させるために、最低限のデューデリジェンスはおこなうべきです。少なくともM&A自体を見直すほどの懸念が無いことは確認したいところです。例えば、譲り受け側にとって大胆な投資に相当するM&Aなのであれば、簿外債務の発覚などでこれ以上のコストが生じることは避けたいはずですから、少なくともこれらのチェックは必要でしょう。ポイントを絞ってデューデリジェンスをおこない、不必要なリスクを負わないことが重要です。
ところで、「無いこと」を確認したいと言いましたが、「無いこと」を確認するのは「悪魔の証明」とも呼ばれ、実は非常に困難なことです。そこでM&Aにおいて活用されるのが、「表明保証」です。

3. 理解しておきたい表明保証とは

表明保証とは、譲り渡し側が譲り受け側に対し、最終契約の締結日や譲渡日時点において、財務などの一定の事項が真実であり、正確であることを表明し、その内容を保証するものです。デューデリジェンスでカバーし切れなかった部分や、簿外債務などが「無いこと」を表明し、保証することで、譲り受け側は安心してM&Aをすることができます。ただし、譲り渡し側としては、無制限に保証をするのは避けたいところです。どこまでの事項を含むのかについては交渉の余地があることを念頭に入れておきましょう。
また、昨今では中小企業のM&Aに対応した「表明保証保険」が販売されるようになりました。表明保証事項の違反が生じ、損害が生じると賠償が必要になることがありますが、その損害額・賠償額が補償対象になるというものです。譲り渡し側、譲り受け側のいずれも加入が可能なものがあり、どちらの立場からもリスク回避につながります。
デューデリジェンスや表明保証を正しく理解し、M&Aのリスクを回避、低減させることは、双方にとって、M&Aを成功に導くポイントになると言えるでしょう。

以上(2024年6月更新)
(執筆 株式会社浜銀総合研究所 主任コンサルタント 中小企業診断士 香川 和孝)

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