【特集】最近よく聞く事業承継型M&Aと成長戦略型M&Aの違いは?それぞれの活用場面を解説

ここ10年で、M&A取引件数は大幅に増加し、M&Aに対するイメージは大きく変わりました。
10年ほど前までは、M&Aは身近な手段というより、大企業による業界再編や、敵対的買収、身売りといった見出しで、世の中で起きているニュースとして大半は捉えられてきたと思います。
今でこそ、事業承継や成長戦略のための一つの手段であるM&Aについて、企業の株主オーナーと自然と議論することができますが、当時は、M&Aを匂わす単語やフレーズを話題にだすこと自体、株主オーナーから怒られる覚悟をもたなければいけなかったように記憶しております。
ここでは一般社会に浸透してきたM&Aについて、中堅・中小企業の事業承継型M&Aと呼ばれるケースを振り返りながら、増加しつつある譲り渡し側が選択する成長戦略型M&Aと呼ばれるケースを解説します。

1. M&Aを一般社会に浸透させた事業承継型M&A

近年M&Aが一般社会に浸透してきたのは、事業承継型M&A取引が大幅に増加したことが要因と考えられます。
事業承継型M&Aとは、後継者問題を抱える中堅・中小企業の事業承継の解決手段として、M&Aを活用することを言います。つまり、譲り渡し側の事業を、親族や社内幹部が承継するのではなく、第三者の譲り受け側となる企業が承継するケースを言います。

事業承継の変遷

昭和・平成時代の中堅・中小企業の事業承継は、株主オーナー兼経営者の子や親族が承継することを大前提としている企業が多かったと思います。ところが最近の調査によると、帝国データバンクが公表している「特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」では、全国27万社を調査した結果、先代経営者と後継者の関係性は、親族承継34.0%、内部昇格33.9%、M&Aほか20.3%、外部招聘7.5%、創業者4.3%となっています。経営承継について、親族承継の割合が34%まで減少してきていることに驚かれる方が多いと思います。
昭和・平成時代の事業承継に比して、親族内承継が減少してきている背景は、株主オーナー兼経営者の子の数が減っており後継者候補がいないケースが増えていること、子が自身の人生を歩み事業の承継を選択しない(又は拒否する)ケースが増えていることなどが挙げられます。また、子や親族に後継者候補がいたとしても、その子や親族にあえて承継しないというケースも増えてきています。日本の少子高齢化・人口減少といった人口動態を背景に、右肩上がりであった経済が継続する前提で経営するのは困難でありますし、海外企業の急速な台頭や、様々な業種で発生するパラダイムシフト等、中堅・中小企業が単独で生き残っていく経営の難易度が高まっていると言えるのではないでしょうか。
後継者問題を抱える理由は様々ですが、後継者が不在であるからといって、廃業してしまっては、従業員の雇用はなくなり、取引先・地域経済も取引消滅により損失を被ることとなります。後継者不在企業の事業承継型M&Aは、株主オーナー兼経営者が株式売却利益等を得られる可能性があるのみならず、従業員の雇用を守ることができるし、取引先・地域経済との取引も継続され、まさに三方よしを実現することができます。

2. 事業承継型M&Aと成長戦略型M&Aの違い

事業承継型M&Aは、後継者問題の解決手段として、M&Aを選択するケースですが、成長戦略型M&Aと言われるケースは、自社の成長戦略を実現するための手段として、事業の譲り受け側となるのではなく、譲り渡し側となる、つまり、自社株式を経営資源豊富な大企業等に保有してもらうことによって、大企業等の経営資源を活用し、自社の成長を実現する手段を言います。

譲り受け側となって成長戦略を実現

最近では、第三者から事業を譲り受けるM&Aにより、成長を実現することを掲げている上場企業の中期経営計画が少なくありません。企業が目指す姿にたどり着くまでに必要となる経営資源(技術・ノウハウ、ブランド、人材、取引先、商圏等)を自前で時間と労力をかけて手に入れる選択もあれば、M&Aによって既に経営資源を有する第三者の企業から手に入れるという選択もあります。
この第三者の事業を譲り受けることで、新たな経営資源を獲得し、自社の成長戦略を実現することは、M&Aの目的としてイメージし易いと思います。

譲り渡し側となって第三者の経営資源を活用する?

上記のように譲り受け側となり成長戦略を実現するケースでは、多くの場合、自社の体力と予算から、自社よりも規模が小さな企業を譲り受けるケースが大半であるため、中堅・中小企業が譲り受け企業の場合は、得られる経営資源は限定されてしまいます。
一方で、中堅・中小企業が、必要な経営資源を有する大企業に対して、自社株式を譲渡し、資本関係を築き大企業グループの一員となれば、自前では調達することが現実的には不可能であった経営資源が手に入り、飛躍的かつ継続的な成長の可能性が広がります。
第三者に株式を譲渡する場合、必ずしも、経営者交代を求められるわけではありません。譲り渡し側の株主オーナー兼経営者は、一緒に経営しながら成長できるパートナー、つまり、株式の譲渡先を自身が選べば良いのです。

3. 成長戦略型M&Aで成長を実現する事例

近年増えている成長戦略型M&Aについて事例をご紹介します。
あるケースでは、若手創業経営者が順調に事業を拡大してきたものの、次の段階の成長を実現するにはどうしても情報技術の経営資源が自社には足りません。そこで、その経営資源を有する上場企業と一緒に成長することを選択し、その上場企業の株式と自社の株式を交換することを決意しました。これにより、上場企業グループの一員になり、上場企業とのシナジーによって、今後の飛躍的な成長を目指しています。このケースでは、若手創業経営者は、上場企業から経営者として残って欲しいと要望され、上場企業グループの一員である企業の経営者として、グループとともに成長を目指しています。
次のケースは、順調に事業を拡大してきた創業経営者ですが、自身の残りのビジネス人生において、もう一段企業を成長させたいという思いがあるものの、一緒に戦略を考え、実現していく「助さん、格さん」が社内にはいませんでした。また、自身の子が事業を承継する予定はなく、社内幹部に承継することも現実的ではないため、将来的には事業承継型M&Aを選択することを考えていました。そこで、M&Aの時期を早め、成長戦略型M&Aに切り替えることで、大企業の多種多様な有能な人材と豊富な経営資源を活用し、将来事業を承継する相手と一緒になって自社の成長を実現させようとしている企業があります。

4. 選択肢の一つとして是非ご検討を

事業承継型M&Aや成長戦略型M&Aにより、事業承継や企業成長を成功させている方が多くいらっしゃる一方で、まだM&Aに対してネガティブなイメージを持ち選択肢から排除している方も多くいます。現代の事業環境では、従来からの固定観念や先入観に縛られることなく、第三者とのM&Aも含め、あらゆるベクトルで柔軟に事業承継や成長戦略の手段を検討することが望ましいと言えます。

以上(2023年2月更新)
(執筆 税理士法人山田&パートナーズ 税理士 金沢 東模)

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