M&Aの成否は準備で決まる! ―成功に導くPMIとは?―

公開日:2026年2月26日

近年M&Aが、事業承継や成長戦略の手段のひとつとして注目を集めています。実際、株式会社レコフ「クロスボーダーM&Aマーケット情報」によると、我が国のM&Aの件数は2024年に過去最多の4,700件を記録しています。しかし、M&Aは成立させることが成功ではありません。むしろどのように統合を進め、シナジーを生み出せるかがM&Aの成否を分けます。そのために実施するのが、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる買収後の統合プロセスです。しかしその実は、M&A成立前からPMIを見据えた準備こそが重要です。
本稿では、中小企業庁『中小PMIガイドライン』を踏まえ、PMIの概要、そしてM&Aの前からどのように準備を進めていくべきかを解説します。

PMIとは?

PMIの概要

PMIはポスト・マージャー・インテグレーション(Post Merger Integration)の略で、M&A成立後に実施される「経営統合の取り組み」を指します。大企業だけのテーマと捉えられがちですが、買収後にシナジー効果を最大化し、リスクを抑制するための基本動作として、中小企業にとっても不可欠です。成立後100日間の集中施策がしばしば重視されますが、中小企業庁『中小PMIガイドライン』では、中小企業のリソースでも対応できるように1年間に拡げた実施を推奨しています。重要なのは、期間や形式的な統合作業ではなく、目的に沿った価値創出を設計し、実行することです。

PMIはいつから始めるべきか?

では、PMIの取り組みはいつから始めるべきなのでしょうか。
中小企業庁『中小PMIガイドライン』では、PMIをM&Aの検討段階を含む4つのステップ「①M&A初期検討」「②“プレ”PMI」「③PMI(集中実施期)」「④“ポスト”PMI(それ以降)」で整理しています。

下図によると、「基本合意締結前」から検討を開始した企業ほどM&A満足度が高いという傾向が示されています。つまり成立後に考え始めるのではなく、なるべく早期にPMIの検討を開始することこそが、M&Aを成功に導くのです。
そこで本稿ではM&A成立前の2つのプロセス「①M&A 初期検討」と「②“プレ”PMI」にフォーカスして説明します。

M&A初期検討段階の2つのポイント

先に説明したとおり、M&Aの検討開始段階から、成功のための準備は始まっています。ただ闇雲に取り組んでは当初の期待を下回る成果しか得られません。次の2つのポイントを必ず押さえてください。

M&Aの目的の明確化

まず重要となるのが目的の明確化です。一般的に中小企業のM&Aによる企業買収は、大きく「持続型M&A」「成長型M&A」の2種類に分けられます。
「持続型M&A」とは、経営が厳しい企業や後継者がいない企業を買収し、譲渡側企業やその事業の存続を支援するM&Aです。地域経済の活性化や従業員の雇用を守ることを目的としています。一方で「成長型M&A」は、シナジーの創出や事業転換による企業およびその事業の成長と発展が目的です。仮に前者が目的の場合であっても、中長期的には「成長型M&A」を視野に譲受側と譲渡側が一体となって成長をめざす姿勢が重要です。

M&Aの成功の定義

次に、「何が実現できれば、M&Aが成功したと言えるのか」も明らかにしておきましょう。「売上の5億円向上」「利益率の3%改善」など必ずしも売上や利益等の指標に縛られる必要はありません。「顧客満足度の向上」「海外展開」を成功と定義しても構いません。短期的な成果だけでなく中長期的な時間軸で成功を定義することも効果的です。
そして定期的に取り組みを振り返り、定義した成功に近づいているかを評価しましょう。必要に応じて組織体制や営業戦略、在庫管理方法などを見直し、軌道修正することが肝要です。

“プレ”PMIの2つのポイント

次のステップは“プレ”PMIです。これは基本合意締結から最終合意、クロージングまでのタイミングでおこないます。M&A成立後の1年間でPMIを集中的に実施するための準備を、このステップで整えます。

デューデリジェンス(DD)

一つ目のポイントは、統合を見据えた情報収集、デューデリジェンス(DD)です。
ビジネスモデルを明確化するビジネスDDから財務DD、税務DD、法務DD、労務DD、ITDDまで、限られた時間のなかで深掘りします。

特に、譲渡側の事業内容と課題認識に対する理解は重要です。事業計画、組織図、主要顧客とその取引状況、主要製品サービスとその特徴、商流、従業員の状況は必ず把握しましょう。
なお、DDを軽視すると予期せぬリスクを抱える可能性があります。実際にライセンス状況の確認を怠ったとある企業では、買収後にすべての事務ソフトが違反状態であることが判明し、正規ライセンス再導入に多額の追加費用を要しました。こうした問題は、成立前に把握していれば譲渡価格の調整などで対応できたはずです。

PMI推進計画

第二に、「M&A成立後のPMI集中実施期に何をするか」をあらかじめ計画しておくことが重要です。M&A成立前のDDでは、書面での情報確認が中心となります。書面だけで譲渡側の事業のすべてを把握することは難しく、成立後現場の従業員から直接聞いて初めて分かることも少なくありません。
そのため、クロージング前においては何を把握できていないか、把握するためには今後どのような対応が必要か想定することが重要です。「M&A成立後の集中実施期に何をするか」をあらかじめ計画しましょう。なかでも「経営の方向性の確立」「関係者との信頼関係の構築」は欠かせません。

経営の方向性の確立

譲受側は新たな経営の方向性を明確にしたうえで、譲渡側におけるこれまでの経営の方向性との差異を正確に把握します。そのうえで、新たな経営の方向性を円滑に浸透させるための取り組みに関する計画を策定しましょう。
譲渡側の経営者や従業員へのヒアリングなどを通じて、新旧の経営における方向性の差異が大きいことが明らかになった場合には、協議を通じて歩み寄るなど、柔軟な対応も必要です。商号や役職など名称の変化も大きな差異に当たりうるため、丁寧な計画が求められます。
しかし、この時点での経営の方向性は、譲受側が立てた仮説です。M&A成立後に把握した経営状況を踏まえ、より実態に即した形で経営の方向性をブラッシュアップし、具体化していきましょう。

関係者との信頼関係の構築

譲渡側経営者、譲渡側従業員、譲渡側企業の取引先、その他の多様なステークホルダーとの信頼関係の構築も欠かせません。それぞれに対して、次のような施策を検討しましょう。

上の表の「譲渡側従業員」へ実施すべき事項として記載したクイック・ヒットは、M&Aによるメリットを早期に実感してもらいモチベーション向上や離職防止につなげる施策です。オフィス機器やPC、スマートフォン等の入れ替え、賃金引き上げ等の処遇改善、オフィスの建て替えやリノベーション等が効果的とされています。大きな費用が掛かる施策ではありますが、中長期的な目線で見ると初期に従業員との関係をより強固にするためにも重要です。
実際、買収後の初動対応を誤ると深刻な人材流出につながるおそれがあります。従業員説明を先送りしたとある企業では、前経営者とキーパーソンの関係が悪化し、複数の退職者が発生しました。仮に好条件の提示を準備していたとしても、情報共有が遅れてしまえば信頼関係は崩れ、目的達成が困難になります。初動で「遅滞なく、全員に、同時に、正確に」情報発信することが極めて重要です。

入念な準備で初動を加速する

M&Aの成功には早期からの準備が欠かせません。事前に入念な準備をおこない1年の初動で「方向性の提示」「信頼関係構築」「業務統合の着手」を一気に進めることが成功の近道です。
中小企業庁が提供する「PMI実践ツール」に含まれる「PMI分析ワークシート」では、「M&Aの目的」と「譲渡側等の現状」について確認すべき項目がリスト化されています。優先課題と対応方針を整理するツールとして役立ちますので、ぜひご活用ください。また横浜銀行でもM&Aに関する相談を受け付けていますので、お気軽にご連絡ください。

参考文献

執筆:浜銀総合研究所

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