価格転嫁できていますか?交渉成功のポイントと利用できるサポート

公開日:2025年5月22日

近年、原材料やエネルギー価格の高騰、人件費の増加など、企業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。このような状況下で持続的な成長を実現するには、何が必要でしょうか。
対応策のひとつが価格転嫁。コストの増加に対応し、収益性を向上させるためには、取引先との価格交渉が欠かせません。本記事では、価格転嫁の意義やそのメリット、具体的な交渉の方法とポイント、さらには活用できるツールや支援窓口を徹底解説します。

「価格転嫁」とは

価格転嫁とは、企業が原材料費や人件費などのコスト増加分を、製品やサービスの価格に反映させることを指します。企業にとってコスト増加の負担を適切に軽減し、事業の継続性と安定性を維持するために重要な施策です。まずは、神奈川県内における価格転嫁の現状を見てみましょう。

神奈川県内の企業における価格転嫁の現状

2024年7月に帝国データバンクが実施した「価格転嫁に関する神奈川県内企業の実態調査」によると、「多少なりとも価格転嫁できている」と回答した企業は75.1%に達しました。この数値は2024年2月の調査より4.2ポイント上昇しており、価格交渉が以前よりもおこないやすい環境であることが窺えます。一方で、1割以上の企業は「全く価格転嫁できない」と回答しており、交渉の手順や進め方に課題を抱えている企業も少なくありません。

価格転嫁に関する神奈川県内企業の実態調査 [価格転嫁率]2024年7月 41.5%、2024年2月 37.7%、2023年7月 41.5%、2022年12月 41.5%
帝国データバンク「価格転嫁に関する神奈川県内企業の実態調査(2024年7月)」P2から引用

価格転嫁のメリット

そもそも価格転嫁には、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、2点ご紹介します。

事業継続の一助となる

物価高が原因で倒産する企業の数は年々増加しています。帝国データバンクが2024年7月に発表した「『物価高』倒産動向調査(2024年上半期)」によると、物価高による倒産は484件と過去最多のペースで進行しています。この厳しい状況下で事業を継続し収益を確保する解決策のひとつが価格転嫁です。適切な価格転嫁が経営基盤を強化し、持続可能な成長を実現します。

「物価高」倒産件数推移 「物価高倒産」2018年以降累計 2021件、2023年1~6月 375件、2024年1~6月 484件(半期最多) ※負債額1000万円以上の法的整理による倒産、集計開始は2018年
帝国データバンク「『物価高』倒産動向調査(2024年上半期)」より引用

賃上げを実現しやすくする

適切な価格転嫁は賃上げを実現するためにも重要です。賃上げは既存の従業員の意欲向上や離職防止に加え、人材獲得にもつながります。
神奈川政労使会議も2025年の春闘前にしたメッセージで価格転嫁に言及しました。「企業の生産性向上と適正な価格転嫁によって企業収益の拡大を図り、それを原資として物価上昇に見合った持続的・構造的な賃金引上げにつなげることで、県民の所得を上げ、消費や投資を拡大させ、経済の好循環の実現を目指します。」とのメッセージを発表しています。

価格交渉の流れとポイント

価格転嫁の成功には、取引先との価格交渉が欠かせません。ここでは、交渉の具体的な流れとポイントをご紹介します。

価格交渉の流れ

成功の鍵は事前準備が握ります。以下の手順に従って、戦略的に進行します。

原価構成や市場価格情報の整理

まず、自社製品やサービスの原価構成を詳細に洗い出します。「材料費」「労務費」「経費」を整理し、取引先ごとにこれまでの販売量と価格の推移、価格変更の理由など合理的なデータを準備しましょう。官公庁の公式サイトや業界誌で労務費、エネルギー費や原材料費の最新情報を収集することが重要です。

取引先の情報収集

取引先の経営方針や業績、設備投資の状況、業界動向等の調査も交渉を有利に進める鍵となります。競合他社の値上げ状況も確認し、交渉のタイミングや改定率を適切に設定します。プライスリーダーとなる⼤⼿メーカーに追随した交渉も策のひとつです。

具体的な価格の検討

収集した情報をもとに、取引先に提示する理想的な価格「提示価格」と、自社が譲歩できる最低の価格「留保価格」を決めます。取引期間や売上占有率も改めて確認し、取引先ごとに柔軟に対応しましょう。

交渉の申し入れ

準備が整ったら、「価格改定検討のお願い」などの文書を発行し、取引先に交渉の場を正式に申し入れます。

価格交渉のポイント

価格交渉の際には、以下の点を意識してコミュニケーションをとりましょう。

自社の強みを明確にする

顧客から見た自社の強みを明確にしましょう。価格の安さに依存した利益率の低い取引や事業に偏ると、企業の持続的な成長可能性が損なわれます。商品やサービスの品質の高さ、独自の企画開発力、顧客へのきめ細やかな対応など、顧客が自社を選ぶ理由の具体的な把握が、価格競争に頼らない戦略の基盤となります。

付加価値を価格に反映する

コスト上昇を理由に値上げすると、コストが下がった際に値下げ圧力がかかります。取引先に自社のサービスや製品の付加価値を正しく伝え、価格に反映できるように意識しましょう。

交渉の「落としどころ」を見極める

相手の反応を見ながら、目標価格に近づけられるよう交渉を進めます。時には「製品設計の変更によるコスト削減」「サービス体制の変更」など価格以外の条件を提示し、交渉の落としどころを見極めます。

価格交渉の際に利用できるサポート

価格交渉の円滑な進行をサポートするための、情報収集や資料作成に活用できるツールや相談窓口をご紹介します。

原価計算ツール

原価計算は、価格の正当性を説明する際に有効です。中小企業基盤整備機構の「価格転嫁検討ツール」など無償でツールが提供されています。合理的に説明し、相手の理解を得るためにも、ぜひ活用ください。

交渉に活用できる公開データ

有利に交渉を進めるためには、市場環境を正確に把握し、伝えることが重要です。都道府県別の最低賃金や上昇率、エネルギーコスト、原材料コストなど、政府や自治体、官公庁が公表している統計資料が役立ちます。特に自社の事業に直結するデータは、定期的に確認する仕組みを整えておくと良いでしょう。
価格交渉に活用できるデータには下図のようなものが挙げられます。

中小企業庁「【改訂版】 中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック」P10-11から引用

金融機関にも気軽に相談を

価格転嫁は、企業の持続可能な成長のために重要な施策のひとつです。本記事で紹介したツールを活用し、データに基づいた合理的な提案を実現しましょう。
とはいえ、価格交渉を成功させるには入念な準備と戦略的なアプローチが不可欠です。必要に応じて、外部の専門的なパートナーの力を借りることも有効な選択肢です。自社でシンクタンク「浜銀総合研究所」を擁する横浜銀行は、業界調査や市場分析、施策立案をはじめとするコンサルティングから金融支援までを一括して相談できるパートナーの候補です。ぜひ日頃から取引のある金融機関にもお気軽にご相談ください。

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