はまぎんパートナーズ・ストーリー01 – 株式会社パインバレー
「必死になって働いた。だからこそ、
引き際にはこだわりたかった」
事業承継に至るまでの経緯を、それぞれのお立場からお聞かせください。
松谷会長
私はもともと60歳で仕事を引退するのが夢でした。というのも、私は家庭の事情で大学進学はあきらめざるを得なかったので、成功するには人一倍経験を積むしかないと考えて若い頃からガムシャラに働いてきました。本当に一日5時間寝られるかどうか、休みも月1・2回しかないような状態でしたね。そしていつか経営者になって、60歳になったらスパッと身を引いて自由になると、心に決めていたんです。
横浜銀行さんとのお付き合いは、2008年にパインバレーを設立して以来、16年になります。私がアパートの一室で事業を始めたとき、何の担保もない中で融資していただいて。「このご恩は一生忘れません!」と当時の担当の方に言ったのを覚えています。それからずっとご縁が続いています。
私は横浜銀行さんのことを、勝手に「よろず屋さん」と呼んでいるんです。今まで本当にさまざまな相談にのってもらいましたから。融資のこと、金融のこと、金利のこと、税金のこと。何でも話せる間柄になっていよいよ60歳が見えてきたとき、「実はそろそろ、いい人に事業を引き継ぎたいんだよ」と相談したんです。それが今から約2年ほど前のことです。
矢嶋社長
私は学生の頃からずっとアパレル業界に身を置いてきました。最初は店舗でのアルバイトから始めて、そのあとは自社のECサイトを立ち上げたり、リアル店舗とオンラインの垣根をなくすオムニチャネル化を進めたり。そうやって四半世紀が経過して、そろそろひと区切りつけて、自分の次のキャリアを模索したいと考えていました。
そんな中、「サーチファンド未来創造」を横浜銀行さんと共同で設立したナショナルサーチファンドの取締役の方から、パインバレーの事業承継の話をいただきました。
実は私もハーレーに乗っていて、私自身がユーザーとしてパインバレーのことを知っていました。我ながら、不思議なご縁だなぁと感じております。

取締役会長/Founder
松谷 昇一(まつたに しょういち)
1966年生まれ。いくつかの職種を経たあと、大手コンビニ3店舗の店長として辣腕を振るい「全国最優秀店舗賞」を3年連続で受賞。42歳でパインバレーを創業すると、パーツ販売やカスタマイズ、エンジンのチューニング、ハーレーの月極駐輪場などに事業を広げ、従業員約20名、年商9億円超にまで成長させる。
「うちの会社の強みを本当に理解してくれたのは、矢嶋さんだけでしたね」
事業承継の決め手になったのは何だったのでしょうか。
松谷会長
横浜銀行さんに相談してから、いろいろな会社さんを紹介されました。それで何度かご面談を重ねたときに、どの会社さんもパインバレーのお店のことは評価してくれるんですけれど、EC事業にはほとんど興味を示さなかったんです。
パインバレーは実店舗とEC事業の二刀流をやっている、バイク業界でも非常に稀な会社です。その点がなかなか評価されず、内心、忸怩たる思いがありました。
しかしそのあと矢嶋さんにお引き合わせいただいたときに、パインバレーの本当の強みを矢嶋さんだけがちゃんと理解しておられた。もともとEC事業で活躍されていた方ですし、なおかつパインバレーのお客さまとして店舗をご利用いただいていたので、これはもう本当に理にかなっているというか、最適な人材だなと私は判断したということです。
矢嶋社長
私は自分のハーレーをパインバレーにカスタムチューニングしてもらったことがあって、前からその技術力を高く評価していました。そこに今回のお話をいただいて、まずはパインバレーの事業内容をきちんと分析することから始めたんです。
パインバレーはアメリカをはじめ世界中からパーツを集めて売る、ハーレーのセレクトショップのような事業形態です。私は前職がファッションのセレクトショップでしたので、事業の根幹が非常によく似ていると感じました。
またEコマースで日本中にお客さまがいるという点でも、私が前職で携わったEC事業を通じて、その重要性は十分に理解しています。ここまで私のキャリアを活かせる仕事なのであれば、このチャンスを逃すわけにはいかない。そんな想いから、全くの異業種で自らが経営者になるという、新たなチャレンジの道を選びました。

代表取締役社長
矢嶋 正明(やじま まさあき)
1998年、株式会社ビームスに入社。2005年にEC部門を新設。責任者としてEC事業を拡大しつつ、2016年に全社のオウンドメディアを統合してユニファイドコマースを実現。2020年、執行役員就任。2024年4月より現職。一般社団法人日本オムニチャネル協会フェロー。一般社団法人コミュニティマーケティング推進協会フェロー。
「すぐ隣に松谷さんがいてくれる心強さ。しかし、決して甘えは許されません」
今後3年間は松谷会長も経営に伴走されるそうですが、矢嶋社長が松谷会長に期待することや、
松谷会長が矢嶋社長に期待することはありますか。
矢嶋社長
私はアパレル業界でさまざまな経験をしてきましたが、対面での接客にせよEC事業にせよ、外部の会社さんやビジネス上のパートナーなど、多くの人たちに支えられてきました。マーケティングの知見などもありますが、バイク業界では社員の方が先輩ですので、みんなと力を合わせて、会社のミッションでもある「お客さまにワクワクを届ける」という目標に向かって邁進していきたいと考えています。
あとはさまざまなアイデアを駆使して、「業界の異端児」と呼ばれるようになってもらいたい。これまでと同じことをやっていても、売り上げは伸びませんから。特にバイク業界は、年々売り上げが落ちている業界です。バイクに乗る人も減っています。その中でも何とか成長を維持し、先ほど矢嶋さんが言った通り、パインバレーがお客さまにとって「ワクワクの発信基地」であり続けるべきだと私は思っています。ぜひそれに磨きをかけて、多くのお客さまに喜んでいただける会社に育て上げてください。
「日本の中小企業にこそ、
サーチファンドを積極的に利用して欲しい」
サーチファンドを活用した事業承継を考えている方に、ひと言アドバイスを。
松谷会長
サーチファンドというのは、今までなかったとても良いスキームだと感じています。事業承継に悩まれる中小企業の方々に、ぜひオススメしたいですね。そこでもうひとつだけアドバイスさせてもらうなら、なるべく若いうちに事業承継をしてもらいたいなと。
※経済産業省 中小企業庁HPより
「商売も、経営も、人生も。
心が満たされることを大切に」
松谷会長の第2の人生について、少しだけお聞かせいただけませんか。
松谷会長
私は富山県高岡市の育ちなんです。残念ながら、今はだいぶ過疎化しています。そこで町おこしを兼ねたスモールビジネスを、最後に立ち上げたいなと。高岡には「高岡銅器」という地場産業があるんですよ。その銅器を使った事業を構想中です。銅器って、ほとんどが仏壇に飾っているような製品ばかりなので、それを何とか若者たちに受け入れられるような形にして、全国に広めたい。いくつかの会社を経営してきた私に、本当に「商才」があるのかどうか確かめてみたいんです。自己満足かもしれませんが、最後にもう一回だけ勝負です。
矢嶋社長
松谷さんは新しいアイデアの塊ですね。パインバレーのミッションは「プロの技術と知識で感動を与えること」ですから、私も松谷さんに負けないよう、そこにアイデアをプラスして、全国のハーレーファンをつなぎ、ご満足いただけるよう努力していきたいと思います。
松谷会長
ハーレーというのは、ただ移動するためだけのツールではありません。ハーレーに乗ることやカスタムすることで、お客さまの心が満たされることが一番大切なんです。ハーレー愛が深い矢嶋さんなら、きっとそれができるはず。大いに期待しています。
また横浜銀行さんには、私の想いが満たされる事業承継が実現できるよう、粘り強くご尽力いただきました。そのことにも、改めて感謝申し上げたいと思います。
※インタビュー内容は2024年7月の取材に基づいています。記事内容および所属は取材当時のものです。
今回のソリューションサーチファンドを利用した事業承継

解説 「サーチファンド未来創造」は、横浜銀行とナショナルサーチファンド株式会社が2023年3月に共同で設立。パインバレーの事業承継を検討していた松谷氏に、横浜銀行が「サーチファンド未来創造」の利用をご提案しました。ナショナルサーチファンドを通じて打診を受けた矢嶋氏を松谷氏とお引き合わせし、矢嶋氏への事業承継に合意。その後、矢嶋氏の個人会社に矢嶋氏と「サーチファンド未来創造」が出資する形で、パインバレーの株式を100%取得。そして2024年4月、矢嶋氏が代表に就任しました。
企業情報
- 会社名
- 株式会社パインバレー
- 代表者
- 代表取締役社長 矢嶋 正明
- 所在地
- 横浜市金沢区幸浦1-15-26
- 創業
- 2008年
- 事業内容
- EC事業(ハーレーパーツ・ヘルメット・アパレル)、 店舗事業(インジェクションチューニング・カスタム・車検・物販)、 駐輪場事業





