2022.11.24

退職金にかかる税金とは?所得税・住民税の計算方法、控除額などの基本的な内容を解説

監修
FP相談ねっと 山中伸枝
執筆
高野 具子
作成
2022年11月

退職金(退職一時金)は、老後の大切な生活資金です。また、投資に回して運用益を得るなど、さまざまなライフプランで活用できます。勤続年数が長ければ、1,000万円を超えるまとまった金額が一度に受けとれることもありますが、転職や第二の人生を考えている場合は、その時点でどの程度の退職金を受け取れるのかも気になるところです。
実は、退職一時金にも所得税や住民税がかかります。また、一般的な給与と計算方法が異なることを知らない人も多いのではないでしょうか。この記事では、退職一時金にかかる税金の計算方法や控除について解説します。
この記事を読むと、退職一時金の額面から税金が差し引かれたあとの金額を計算できるようになります。ご自身が退職一時金をどのように活用するかイメージして、今後の生活設計の参考にしてください。

退職一時金に掛かる税金の種類

退職一時金には「所得税」と「住民税」がかかりますが、通常の給与や賞与(ボーナス)とは課税の仕組みが異なります。

厚生労働省の平成30年就労条件総合調査によると、「退職一時金制度」で大学・大学院卒の定年時の平均額は1,678万円です。勤続年数が20年以上になると1,000万円を超えるケースも多いでしょう。

勤続年数
20~24年 1,058万円
25~29年 1,106万円
30~34年 1,658万円
35年以上 1,897万円

出典:厚生労働省ホームページ 平成30年就労条件総合調査 結果の概要

次章から、この額面金額に対し所得税や住民税がどの程度課せられるのか、手元に残る金額を確認していきます。

退職一時金には税制優遇がある

退職一時金は特別に税金が優遇されています。老後の暮らしに備えた貴重な資金であることと、長年働いてきた人を労う意味もあります。

分離課税

退職一時金の場合は「分離課税」といい、他の所得とは分けて計算するルールが適用されます。

一般的な課税の方法を説明します。仮に給与所得が1,000万円あり、そのほかの所得が500万円あったとします。この場合は、総合課税の考え方に基づいて所得は合算され、1,500万円に対して所得税がかかります。

所得が増えると所得税率が上がるため、分離課税のほうが有利です。

退職所得控除

退職一時金には、特別な控除があります。控除とは所得から一定額を引くものです。

退職一時金の所得額から控除されることによって、税金が掛かる対象金額が下がります。その結果、税金自体も下がるのです。退職一時金の金額が控除額を下回った場合には、所得税はかかりません。

退職所得の金額(税金が掛かる退職金の額)は次のように計算します。

(収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額

また、退職所得控除額は、勤続年数が増えれば増えるほど大きくなります。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数‐20年)

出典:国税庁ホームページ 退職金を受け取ったとき(退職所得)

退職一時金にかかる課税額の計算方法

退職一時金にかかる所得税と住民税の課税額について、実例をもとに計算してみましょう。
勤続25年勤続で1,500万円の退職一時金を受け取った場合を想定します。

  • 退職所得控除額=800万円+70万円×(25-20)=1,150万円
  • 退職所得の金額は(1,500万円-1,150万円)×1/2=175万円

課税対象額は175万円です。

1,500万円を175万円とみなして税金計算してくれるため、かなり「おトク」になっていることがわかります。

所得税の計算方法

175万円に対してかかる所得税を計算するには、次の速算表を使用します。

出典:国税庁ホームページ 所得税速算表

速算表より、課税される退職所得額が175万円では税率が5%、控除額は0円です。

復興所得税も加味すると、所得税額は175万円×5%×1.021=8万9,337円となります。

住民税の計算方法

住民税の計算に使う退職所得控除額や課税される退職所得金額も、所得税で計算したときと同じです。

住民税の計算は、課税される退職所得金額に住民税率を乗じて計算します。住民税率は、一律10%(都道府県民税4%、市区町村税6%)です。

25年勤続し、1,500万円の退職一時金を受け取ったときの退職所得金額は175万円だったため、住民税は10%の税率が掛かり17万5,000円となります。

以上の内容から、所得税と住民税を合わせて、8万9,337円+17万5,000円=26万4,337円が差し引かれます。

まとめ

退職一時金には税制優遇があるので、一般的な給与に比べると、税金は安く、手元に残るお金の不安は減ったのではないでしょうか。

まずは勤め先の退職金支給規定を確認し、自身の勤続年数から退職一時金の見込み金額を算出しておきましょう。記事で紹介した式を使って、所得税や住民税の算出も可能です。

どの程度、生活資金に組み込むのか、投資に回すのかなど、資金計画を立て始めてみてはいかがでしょうか。

2022年6月の法令に基づき執筆