2024.04.10

公的年金は何歳から受け取る?繰下げ受給で年金額はどれだけアップするのか

監修
FP相談ねっと 山中伸枝
執筆
井内義典
更新
2024年4月

公的年金は65歳から受け取れますが、受給開始の年齢を繰り下げて受給することもできます。繰り下げることで将来的に累計額が多くなる場合もありますが、何歳から受給するのが適切か迷っている人も多いでしょう。
そこで本記事では、繰下げ受給の仕組みや、受給開始時期による年金額の違いについて解説します。
この記事を読めば、繰下げ受給のメリットや注意点がわかります。自身の受給開始年齢をイメージするうえでぜひ参考にしてください。

繰下げ受給の仕組み

65歳よりも公的年金の受給開始を遅らせて受け取ることを繰下げ受給といいます。受給開始を繰り下げると、遅らせた分だけ受給額が増額される仕組みです。75歳まで10年間、繰り下げると、最大84%が増額されます。(1952年4月1日以前生まれの方(※1)は繰り下げの上限年齢が70歳(※2)となります。)

  • (※1)
    または2017年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方
  • (※2)
    権利が発生して5年後まで

1か月につき0.7%増額

出典:年金の繰下げ受給|日本年金機構

65歳(※3)から終身で受給できる老齢基礎年金や老齢厚生年金の繰り下げ受給制度では、1か月繰り下げると0.7%増額されます。最大で75歳まで繰り下げられるため、84%(0.7%×120ヶ月)まで増額できます。(※4、5)
なお、増額率は一生そのまま適用されます。

  • (※3)
    年齢の計算は「年齢計算に関する法律」に基づいて行われ、65歳に達した日は、65歳の誕生日の前日になります。
  • (※4)
    ただし、1952年4月1日以前生まれの方(または2017年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰り下げの上限年齢が70歳(権利が発生して5年後)までとなりますので、増額率は最大で42%となります。また、65歳以後に厚生年金に加入していた期間がある場合や、70歳以後に厚生年金保険の適用事務所に勤務していた期間がある場合に、在職老齢年金制度により支給停止される額は、増額の対象になりません。
  • (※5)
    65歳以後に年金を受け取る権利が発生した場合は、年金を受け取る権利が発生した月から繰下げ申出月の前月までの月数で計算します。

66歳(0.7%×12か月=8.4%増額)以降は、1か月単位で繰り下げられます。また老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給開始時期も別のタイミングにずらせるので、自身の生活設計に合わせて選択するとよいでしょう。

繰り下げして長生きすると受給累計額が多い

繰下げ受給を選択すると、受給開始までの年金が0円となる代わりに、受給開始以降は常に増額され続けます。そのため生涯の受給累計額は、65歳で受給開始するよりも繰下げ受給のほうが途中で逆転して多くなります。

受給総額 [65歳と70歳の比較]81歳11か月で70歳受給開始の受給総額が上回る [65歳と75歳の比較]86歳11か月で65歳受給開始の受給総額を上回る [70歳と75歳の比較]91歳11か月で75歳受給開始の受給総額が上回る

日本年金機構HPの繰下げ増額率早見表をもとに当行が作成

受給開始が65歳の場合と、70歳および75歳まで繰下げ受給した場合を比較してみましょう。81歳11か月で「受給開始70歳」が「受給開始65歳」を上回ります。さらに91歳11か月では「受給開始75歳」がもっとも受給累計額が多い選択に逆転が起こるのです。長生きをすればするほど、繰り下げたほうが累計額が多くなる計算です。
一方で、繰下げ受給した場合は、受給金額が増えるため、社会保険料等の負担も増加します。

繰下げ待機と一括受給の比較

65歳時点で繰り下げを決断せず、先送りにする方法があります。一度、受給を開始するとあとから繰下げ受給はできないので、すぐに受給開始を選択しないのもひとつの手です。

「70歳定年時代」とも言われる昨今では、65歳以降も働く人が増え、「給与収入があるので年金の受給はまだ必要ない」という人もいるでしょう。

繰下げ待機

65歳から受給するか、繰下げ受給をするかは、65歳時点で決める必要はありません。65歳時点で受給の手続きをしなければ「繰下げ待機」という扱いになります。

例えば67歳になるまで仕事を続けて退職を決断したとします。この時点で繰下げ受給を申請すると、16.8%の増額(0.7%×24か月)です。

給与収入がなくなるタイミングで年金受給が開始でき、しかも65歳で受給開始するより増額されているので「ちょうどよい選択」といえるかもしれません。

あとから65歳にさかのぼって一括受給

繰下げ待機の状態から、65歳にさかのぼって一括受給する選択もできます。なお、70歳到達時以降に繰り下げ申出をせず年金請求をした場合は、請求の5年前の日に繰下げ申出があったものとみなされます。これを繰下げみなし増額制度と言います。
繰下げみなし増額制度は、1952年4月2日以後に生まれた方、または2017年4月1日以後に受給権が発生した方が対象です。80歳以後に請求する場合や、請求の5年前の日以前から障害年金や遺族年金を受け取る権利がある場合は適用されません。

  • 過去分の年金を一括して受給することにより、過去にさかのぼって医療保険・介護保険の自己負担や保険料、税金等に影響する場合があります。
  • 5年以上前の年金金額は時効により受給することができません。

先ほどの例では、65歳から67歳まで2年分の増額なしの年金を一括受給できます。ただし、その後も65歳時と比べて増額なしでの受給が継続します。退職時点でまとまったお金を受け取れるのはメリットといえるでしょう。

なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金で、個別に受給開始時期を選択できます。

受給を開始したら繰下げ待機には戻れない

いったん受給を開始すると、その後に繰下げ受給への変更はできません。65歳以降も働いて給与収入を得ながら、また貯蓄や私的年金の額を見ながら、老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給時期と方法を検討するのも、ひとつの方法といえるでしょう。

繰り下げで増やせない場合もある

繰下げ受給には注意点があります。老齢厚生年金に加算されることのある加給年金や、老齢基礎年金に加算されることのある振替加算といった加算部分は、繰り下げでの増額はできません。これらの加算の対象となる人は、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。

また、一定の場合を除き、障害年金や遺族年金を受給できる場合も老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰り下げができません。老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰り下げを検討しながら、65歳時点で繰り下げできないと気付いて焦らないよう、あらかじめ繰下げ制度の注意点も把握しておきましょう。

まとめ

公的年金は65歳から受け取れます。また、75歳まで10年間、繰下げ受給すると、最大84%が増額されます。長生きをすればするほど、繰り下げたほうが累計額が多くなる計算です。繰下げ受給も含め、受給開始時期は65歳以降の状況に応じて柔軟に選ぶとよいでしょう。今回取り上げた繰下げ受給制度の特徴を整理したうえで、最善の選択ができるように、65歳時点での収入と支出のバランスをシミュレーションしてみてはいかがでしょうか。何歳まで繰下げ受給を待機すべきかを計算するヒントとなるでしょう。